
信州大学医学部 周産期のこころの医学講座 村上寛 先生(写真向かって右)
株式会社テックドクター 河田
ウェアラブルデバイスを用いて妊産婦の健康状態を長期間にわたってモニタリングし、メンタルヘルス不調や精神症状との関連について調査する。将来的には、周産期のうつ状態の早期発見・早期介入体制の構築を目指す。
私たちの取り組みは、妊産婦さんのメンタルヘルスや精神疾患を専門にケアするチームです。産婦人科だけでなく、精神科や小児科、遺伝子医療、児童精神科など、複数の診療科が連携する必要があるため、「周産期のこころの医学講座」というチームを信州大学医学部内に設立しました。これにより、各科の縦割りの壁を緩め、チームとして一丸となって取り組むことを目指しています。
病院内では、妊産婦さんのメンタルヘルス専門外来である「周産期のこころの外来」や、父親の産後うつをマネジメントする「周産期の父親の外来」を中心に診療を行っています。
また、病院外では、産後うつの啓発活動にも力を入れており、松本地域のさまざまな関係者と協力して取り組んでいます。

もともとは小児外科医として勤務していましたが、身体的なケアだけでなく、患者さんの心やメンタルのケアもできる医者になりたいと考え、信州大学に来ました。
コロナ禍においては、妊産婦さんの生活が引きこもりがちになり、メンタルヘルスの不調が顕著に表れるようになりました。私は小児外科医としての経験を活かし、そのような妊産婦の方々へのアプローチが自分の重要な使命だと感じ、活動するに至りました。
コロナ禍以前は、立ち会い分娩や両親学級などで、妊産婦さんと父親が共に育児をする体制が少しずつ整ってきていました。しかし、コロナ禍のソーシャルディスタンスの影響で、妊産婦さんが一人で妊娠期を迎え、産後もステイホームで家に籠らざるを得ない状況になりました。その結果、メンタルヘルスのサポートがこれまで以上に重要になりました。

妊産婦さんの産後うつにおいては、予防や重症化防止が非常に重要です。妊娠中や産後の早期段階で異常を発見することが求められます。
現状の母子保健体制では、市町村で妊産婦さんに対して3回の面談やアンケートを提供する「伴走型相談支援」が母子保健の基本骨格になっています。 その間に妊婦健診や産後健診が医療機関や産科施設で行われますが、しんどくなった時にすぐレスポンスできず、必ずケアの「切れ目」が存在します。この切れ目を補完するために、ウェアラブルデバイスの長期データが役立つと考え、今回の研究を始めました。
ウェアラブルデバイスが切れ目のない支援に繋がると考えていましたが、医師としてデバイスやデータの取り扱いに慣れていない部分があり、そこをサポートしてくれるチームを探していました。
医療においてエビデンスは重要です。今回利用するFitbitは、APIが公開されておりデータ収集が可能なだけでなく、Fitbitのデータと生体データがかなり一致していることが先行研究で確認されていたため、安心して研究に採用することができました。

テックドクターと一緒に研究計画を立てる中で気づいたことですが、妊産婦さんや産前産後を過ごす方は、自身の睡眠状況を振り返る余裕すら無いことが多いです。そのため、Fitbitを着けていただき、外来で睡眠データを提示することで、効率的にヘルスケアをサポートできるのではないかと期待しています。
一方で、Fitbitは軽量でバッテリーの持ちも良く、防水機能もありますが、それでも育児中に装着することへの抵抗や不便さがあるかもしれません。こうした点についても、今回の研究で検証していきたいと考えています。
今回はあくまで探索的研究で、妊産婦さんの睡眠データを収集した研究はほとんどありません。得られたデータから産後うつの早期発見モデルを確立できるかどうかを確認していきたいです。
将来的には、少子化が進む中で助産師さんや保健師さんの働き口が減少し、支援が不足する可能性があります。これを補完するために、デジタルデバイスを柔軟に活用し、社会全体で産前産後や子育てをする方々をサポートする体制を作っていきたいと考えています。

村上先生の著書
さよなら、産後うつ ―赤ちゃんを迎える家族のこころのこと
https://www.shobunsha.co.jp/?p=8449
取材日:2024年9月29日
先生へのインタビューの様子は、こちらの動画でもご覧いただけます。
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